イギリスのエレクトロニック・ミュージックの先駆者でレジェンドのケミカル・ブラザーズは、常に最先端のテクノロジーを取り入れてきました。この画期的なアプローチを踏襲し、最新曲 「Live Again」 のプロモーション映像でバーチャルプロダクションを活用し、他の方法では実現できないストーリーを語ります。
ARRIステージロンドンで撮影され、Outsiderが制作したこの宣伝映像は、ダンサーがキャンピングトレーラーからさまざまな環境に現れますが、いくつかのシーンの切り替えが1つの連続ショット内でライブに行われます。
Unreal Engineのシーケンサー・ツールを使用して、ARRIソリューションズ、Creative Technology、Lux Machinaのステージチームは、Untold Studioによって構築された各環境の鮮やかなシーケンスを完全に3D制御して制作しました。この作業には、慎重な調整が不可欠でした。バーチャルな遷移、照明のシーケンス、カメラの動き、セットの装飾、そして雰囲気の要素を綿密に計画し、細部までリハーサルする必要があったのです。
ARRIは、監督デュオであり長年クリエイティブの分野で協働してきたドム&ニックに、彼らの特徴的な監督スタイルをどのようにバーチャルプロダクション環境へ反映させたのか聞きました。
ビデオのクリエイティブコンテンツにバーチャルプロダクションを利用するということを知り、どのようにアプローチしましたか?
ミュージックビデオの制作はとても楽しいものです。ルールを破って、まったく新しいことに挑戦できます。ARRIステージロンドンとそのスクリーンの壁に初めて没入したのはとても印象的な体験でした。この空間とテクノロジーを使って、他の方法では撮れない物語をどのように作ることができるかを考えることから始めました。
私たちの主な挑戦は、カットやグリーンスクリーンを使用せずに、さまざまな環境で途切れることなく撮影することでした。撮影前には、Unreal Engineを使用してさまざまな没入型環境を設計し、物理的なセットの空間を調整し、俳優と小道具をどのように配置できるかを把握しました。
最先端のテクノロジーは、ケミカル・ブラザーズとのコラボレーションの特徴です。ディレクティングスタイルをバーチャルプロダクション環境に反映する上でどのような計画を立てましたか?
これまでの映像の多くはポストプロダクションに何ヶ月もかかっていましたが、この楽曲はコンセプトから納品まで迅速に行う必要がありました。ARRIステージロンドンの存在と、バーチャルで物理的な世界を照らす素晴らしい技術があることは知っていました。そのおかげで、これまでにない方法で空間を使用するというコンセプトがひらめいたのです。
このプロセスは私たちにとって全く新しいものであり、バーチャルプロダクションを前例のないものにしようとしていました。そこでUntold Studio、Creative Technology、Lux Machina、ARRIソリューションズの助けを借りて、どのように複数の環境を設定し移動しながら1つの途切れることのないカメラショットで撮影するかという課題に取り組みました。効果的なアドホックワークフローを創りだした後、チームとして問題に取り組み解決できました。
バーチャルプロダクションの撮影に期待していたことは何ですか?実際に経験してみて、違った点はありましたか?
従来のカメラクルーのアプローチをバーチャルプロダクションの要素にそのまま移行させることは難しいかもしれないと予想していましたが、そうではありませんでした。DP(撮影監督)のスティーヴン・キース=ローチは、ARRIステージチームと協力して各シーンをバーチャルでライティングした後、ガッファーのケヴィン・マクモローとキャラバン内で実際のスタジオライトをしたところ、シームレスに行うことができました。
リアルタイムのカメラトラッキングとライティングを備えたARRIステージの全周を囲むデザインは、従来のグリーンスクリーンからは大きな飛躍です。エッジやスピルがなく、反射も完璧です。CGI(Computer Generated Imagery)と現実世界の統合に成功した最大の要因は、イメージベースのライティングで、これを俳優、反射率の高いセット、小道具、衣装に利用するARRIステージロンドンのプロセスが、なかでも最大の進歩でした。さらに嬉しいことに、前景と背景を同時に撮影することができ、後で合成する必要がないということもわかりました。
LEDスクリーンは自然光のような強い光を発しないので、物理的なステージでうまく機能し、セットとスクリーンを調和させることのでき、よりソフトなライティングセットアップを使用しました。おかげで、非常に短時間で、太陽を空の上で移動させたり、雲の後ろに置いたりすることができました。
ARRIステージロンドンのテクノロジーには、クリエイティブなビジョンをサポートするのに適した具体的な特徴がありましたか?
そのテクノロジーはアイデアを引き出すことができる一方で、クリエイティブな解決策を必要とする制約もあり、それが映像に独特のスタイルをもたらしました。すべての環境に移行するセットを構築することはクリエイティブな課題でしたが、アイデアをさらに発展させてくれました。例えば、砂漠のフロアーを都市の建設現場に変えることができました。そして、そのようなプロセスを通して、様々なことが繋がっていきました。
何であれ思いつく細工やアイデアを使いながら、可能な限り俳優やセットとアンリアルな環境を繋ぐことが重要でした。たとえば、CGIのタンブルウィード(回転草)が画面に入り、物理的なセットの中を回転しながら3D環境の背景に消えていきます。空にある黒い円盤のような物体の動きは、その逆です。つまり、遠くのアンリアルな環境から始まって、セット内の俳優の頭の真上に移動します。ライティングをカメラと同期させ、黒い円盤もLEDウォール上にリアルタイムVFXとして統合されていました。つまり、俳優は完成した映像を見ながら演技したり反応したりできるようになり、ARRIステージ上でも、完成した映像と同様に不気味で説得力があるように見えました。
ARRIステージロンドンでの撮影体験は、全体としてどのようなものでしたでしょうか?
ARRIステージロンドンの施設は申し分なく、素晴らしい労働環境です。化粧室や衣装室からステージまで、クリエイティブな仕事をするにあたってこれ以上の環境は期待できないでしょう。すべてがよく考えられ、計画されています。
ARRIステージのチームは本当に熱心で、私たちの素敵な撮影クルーと作品をサポートしてくれました。彼らは、このフィルムを実現するために大きなクリエイティブな挑戦を本当によく引き受けてくれました。素晴らしいコラボレーション相手であり、機会があればすぐにでもまた一緒に仕事をしたいと考えています。